101 :プリンはのみものです。
父に私の知らない顔があったこと。

父は強面で、口はへの字で眉間にはシワを寄せていつも不機嫌そうな顔だった。
母に対しても「おい、新聞」だとか「お前、耳掻きどこやった?」だとか、偉そうな口ぶりで指図してた。娘である私も父の笑った顔なんか見たことないし、物心ついたときから父が怖くてあまり喋った記憶がない。
対称的に母は穏やかで、どれだけ父が怖い顔してようがニコニコ笑って父の指図に応えてた。「お父さんはああいう顔なのよ」って言ってたけど、私は常になまはげに見張られてる感じだった。

私が高校生のとき、気分が悪くなって早退したことがある。ちょうどその日は父が休みだったので、怒られやしないかとビクビクして帰ったんだけど、どこか出掛けたみたいだった。
そのまま自室で寝てたら、母が買い物から帰ってきて、しばらくしたらもう1人帰ってきた音がした。
すると突然「○○ちゃ〜ん」と母の名前を呼ぶ声がした。父なら「おい」とか「お前」としか母のことを呼ばないので、不倫相手か?!とも思ったけど、何とも言えない低音は父のそれだった。
もうびっくりして気分が悪いのも忘れて、気付かれないように居間を覗くと、母の膝に頭を預けて耳掻きしてもらってる父がいた。「○○ちゃん、今日の夕飯なに〜?」なんて甘えたような声を出してて、衝撃的すぎて「ヒエッ…」みたいな声が出てしまった。
その声に気付いた父が、なんでもないような顔で「帰ってたのか」とか言ってたけど時既に遅し。母も「あらあら〜」って笑ってた。

いつものなまはげが、七福神のうちの1人みたいな顔になっていたのがスレタイです。その顔に出会えたのはこの1度だけ。